『  ・・・ だから  さ   ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわざわざわ  −−−   編集部は常に動いている。

部員たちが室内を歩き回っているわけではないが、PCを前にしつつも大人しく座っているやつなどいない。 

ぶつぶつ呟いていたり 電話を片方に引っ掛けているのは序の口で、ゆらゆら身体を動かして

キーボードを打っているヤツ、 ガシガシ髪をひっかいているヤツ、 口をもぐもぐ・・・ やら

ペット・ボトルの豪快イッキ飲み〜 なんかもザラなのだ。

もちろん! 男性に限ったことではなく、女性部員も皆賑やかである。

まあ ・・・ およそ < オフィス・マナー > には外れている連中ばかりだが、

なぜか見苦しく感じないのは不思議である。

ジョーはそんな職場が キライではない。 ― いや むしろ楽しい。

 

     ふふふ ・・・ この雰囲気〜 いいよなあ・・・

     ざわざわ〜〜って活気があってさ  皆  自分の持分に集中しててさ 

 

     お〜っと ぼくも早く柱のチェック、あげないとォ〜〜

 

ちら・・っと周りを見回してから 彼もまたノルマの世界にぶくぶくと潜る。

この職場もそろそろ7年目 ― ジョー自身 ヒヨコの時期は脱したかな〜・・・と自負している。

「 ですからですね〜 そこをなんとか ― 」

「 え〜〜〜 まだ上がってない?!  ― 寝かせるなっ! お前もだぞっ! 」

「 ・・・ あ〜〜 はいはい・・・ え〜〜 それはちょっと ですね〜 」

「 はい?  あ ・・・ お待ちください。   島村チーフ〜〜〜〜! 電話! 9番! 」

「 ―  あ?  はい〜〜  ・・・ モシモシ〜〜 ? 」

ジョーはちょっと首を傾げつつ 受話器を取った。

彼は今 外部から直接電話を受ける仕事は持っていない。

 

     へえ ・・・ 誰だろ。  あ 博士かなあ・・・

 

「 ― モシモシ〜〜 ? ・・・ あのォ〜〜 島村ですが〜〜 

受話器の向こうからは一瞬 息を飲む音が聞こえ ―

「 Joe? c`est moi, Francoise 〜〜〜〜〜〜  〜〜〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜 ! 

小鳥のさえずりみたいなフランス語がだだだだ〜〜〜っと流れてきた。

「 あ! ちょ ちょっと待って〜〜   じ 自動翻訳機〜〜 かち。 

 やあ フランかい? どうしたの。  え? ごめん、もうちょっとゆっくり喋ってくれるかい?

 自動翻訳機が付いてゆけなくてぴ〜ぴ〜〜言ってる ・・・もう一回初めから しるぶぷれ。 

 え? ・・・・・・ う〜〜〜〜〜む ・・・〜〜〜〜〜〜  〜〜〜!!! 」

 

     ―  カチ ・・・!

 

周囲の編集部員にはなにか微かな音が聞こえただけ だっただろう。

「 ・・・ んん?  ・・・ あ〜 ボールペンでも落としたかあ・・・ 」

島村チーフの隣の席の男性は ほんの一瞬、顔をあげたがすぐにまた自席のモニター画面に

張り付いていしまった。

 ふわり。  彼は全然気が付かなかったけれど、チーフの机上で メモ用紙が一枚、

ほんのわずか宙に浮いて ・・・ 静かに舞い降りた。  ― それだけだ。

「 え〜と・・・ 島ちゃんは ? 」

「 え? あ〜 アンドウ課長・・・・ チーフならそこに 」

「 いないわよ? 」

「 へ??? あ 休憩かなああ〜〜  今日は遅出で昼飯、まだみたいだったし・・・ 」

「 え。 今頃?   あ〜 メモがある〜  ふむ?  ・・・ なんだ、すぐにもどるってさ。 」

アンドウ課長は ひらひら・・・手にしたメモを振ってみせた。

「 あ そですか〜  ・・・ う〜ん オレもちょっとブレイクすっかナ〜〜〜  」

「 ちょっと! スズキ君!  アンタ、島ちゃんが戻るまでに自分のノルマ、上げときなよっ!

 いっつも島ちゃんに手伝ってもらってるでショ! 」

「 ・・・ すィまっせ〜〜〜〜 」

「 口 閉じ!  手、うごかす! 

「 ・・・・・ mmmm  ( 無言 )  

「 ふん ・・・!  も〜〜〜〜 イマドキのバカモノは ったく!  島ちゃん 大変だわナ ・・・ 」

アンドウ女史は溜息つきつき ・・・ 自席へと戻っていった。

  ・・・ ざわざわざわ   そして編集部は再び <いつもの> 活気に包まれていった。

誰一人 島村チーフがオフィスの近辺に、 いや トウキョウトにすら居ないなんてことを

考えてもみなかった。

 

 

  その頃 ・・・ 岬の突端の洋館では。

 

      ―   シュ − ・・・!    

ほんのすこし、コゲくさい臭いがして ・・・ リビングにジョーは忽然と現れた。

「 フラン!!  それでアイツらは!?? 」

「 !  ・・・ ああ ジョー。  ! やだ〜〜 ちょっと これ、被ってよ〜〜 」

  ―  バサリ。  

フランソワーズは顔を顰めつつ、彼女のご亭主に取り込んだばかりのシーツを放り投げた。

いくら見慣れた愛しい姿〜 だとはいえ、真昼間に一糸纏わぬ姿はいただけない。

「 わっぷ ・・・!   ご ごめん ・・・でも加速 ・・・  」

「 わかってます。 だけどね〜〜 裸で突然出現されても ・・・ 」

「 ごめん ・・・ あ! それどころじゃないよ〜〜 チビ達は!? 」

「 だから。  ―  どっかいっちゃったの。 」

「 !??・ そ そ それって〜〜 行方不明ってことかい??

 大変だ〜〜〜  誘拐されたのか??  犯人め〜〜〜  ゆるさんッ ! 

 どこまでも追い駆けて ぼこぼこにしてやる〜〜〜 一発でノシてやる〜〜〜!! 」

シーツを撒きつけたまま 珍しく、島村氏は激怒していた。

「 もしもし? ちょっと落ち着いてくださ〜〜い 」

「 落ち着いて??  よくそんなコトが言えるね?  きみ〜〜 母親じゃないか〜〜

 そもそも怒涛のフランス語で カリカリな電話、してきたのはきみだろう?? 」

「 ええ。 ・・・ あは、 ジョーに喚いたらすっきりしちゃった♪ 」

「 !?  すっきり・・・って!  チビたちはまだ 」

「 それもね、 多分ウチの敷地内にいると思うわ。 」

「 し  敷地内 〜〜〜〜 ??? 」

「 はい。 」

「 だ だ だったら〜〜 さっきの取り乱し放題のフランス語の嵐はなんなんだい??」

「 あ   ・・・ あれ?  あは ・・・ わたしねえ ・・・ あのコ達が約束を破ったのに 

 も〜〜〜 腹が立って 腹が立って・・・・ 焦げそうだったのよ。 」

「 こ ・・・ こげそう?? 

こっくり、頷いてフランソワーズはジョ−の手を握った。

「 ええ。  ともかく、もう一度ウチの周りをサーチしてみます。 」

きらり〜ん!  ・・・ 003の <目> が鋭い光を放つ。

「 ・・・  ― 商店街周囲には  いません。  事故もありません。 

 あ  ねえ ねえ ジョー ・・・  お仕事、大丈夫?  」

「 え。  あ  ああ ・・・・ 一応メモは残してきたけど ・・・

 そうだ、 電話いれとくかな・・・ ヘ〜〜ックション!! 」

彼は 009 から 島村氏 にもどり、シーツを巻き直しつつ固定電話に手を伸ばした。

「 ・・・っと ・・・ あ〜 もしもしぃ〜〜?? 」

「 ジョー・・・ ごめんなさいね ・・・  もう〜〜 あのコたちったら〜〜〜 

 見つけだしてとっ捕まえて〜〜 オシリ ぺんぺん! よ! 

 あ・・・ ジョー?  電話 終ったら、防護服に着替えておいてくれる? 」

「 ・・・ すいません〜〜 アンドウ課長。 ちょっと打ち合わせ延びそうで・・・

 え? ぼうご・・・? ああ わかった。  い いえ〜 こっちのコトで ・・・ ええお店の人が・・・

 はい  はい ・・・ なるべく早くもどりますから。 」

ジョーは電話を切ると  ― シュ・・・っと  消えた。

そして フランソワーズはどっかりとソファに腰を据え、じっくりと目と耳を稼働させ始めた。

 

 

 

 ・・・ ズズ・・・!  足元の岩が簡単に砕け崖からころげ落ちてゆく。

そして ―  ころころころ ・・・   ばっしゃ〜〜〜・・・・ん・・・・! 下〜〜の方から

海に落ちた音が聞こえてきた。

「 ・・・ おっとォ〜〜  」

すぴかは ぎゅっと松の根っこを掴む。 

「 えっと ・・・ こっちのかどっこなんだよね〜 しろいおはながいっぱいのとこ・・・

 なんてったっけ・・・ え〜と・・・ あ! すいせん。 そうだよね〜 」

じり じり じり。 すぴかはものすご〜く慎重に足を進めてゆく。

この崖っぷちの窪地 ―  お母さんは危ないから行っちゃだめ、と言った。

・・・ けど。  ナイショだけど。  その前に、すぴかは <ぼうけんずみ> だったのだ。

 

    おかあさんがさ〜 だめ っていうまえにいったんだもん、いいよね〜

    あぶなくなかったもん。  ・・・ おもしろかった♪

 

だからその先に キレイな白いお花がまとまって咲いていることも知っていた。

「 おかあさんのすきなおはな〜〜♪  あれ、とってきてぷれぜんとにするんだ〜〜 」

大きな木のねっこをしっかり掴んで行けば大丈夫 ・・・ ほら。 もうすぐそこだ。

伊達にお転婆をやっているすぴかではない。

彼女は本能的にも経験からも < これいじょうはあぶない! > という限界がわかっていた。

勿論、まだ一年坊主ゆえ、理屈なんかじゃなくてもっぱら < だめっぽい > と感じるだけで

一種野生のカン、に近いのだろう。

しかし ・・・ さすがに009と003の娘、というべきか。 すぴかは物怖じしないコなのだ。

「 ダイジョブ  ダイジョブ ・・・ ちゃんとふんでゆけば・・・  う〜〜〜ん ・・・ えい! 」

 

   むぎゅ!   やた〜〜!   ― ついにすぴかは 白くていい匂いのお花を一株、

根っこに近いところを握った。

「 へへへ〜〜ん♪ やったね!  このまんまひっぱって ひっぱって ・・・ う〜〜〜〜〜ん!」

すぴかは片手で松の根っこを握り締め もう片っ方の手をぐいぐい引っ張った。

「 う〜〜〜〜ん ・・・・!!  よいしょ〜〜〜〜 !!! 」

 ズリズリズリ ・・・ 足元の砂岩が崩れ運動靴がめり込んだけれど 彼女は全然平気だ。

「 く〜〜〜〜ウ〜〜〜〜  !! 」

 

      ぼこ。    やっと白いお花は根っこから球根ごと抜け ・・・

 

「 やた!  あ??? ああ  ああ  ああ〜〜れ〜〜〜 」

  ぐら ・・・・   すぴかの身体は反動で大きく後ろに反っくり返ってしまった。

「 ・・・ うわっち・・・・! っとォ・・・・  」

しかしさすがのお転婆娘、慌てることもなく手近にあった小さな実生の松をひっつかんだ。

「 ・・・ しろいおはな〜〜♪  おかあさん、びっくりするよねえ〜

 うん?  あ  この木! このちっこい木、 おじいちゃまにもってこ♪ 」

   ・・・ う〜〜〜ん ・・・!  今度も全身でひっぱり〜〜   ― ぶち。

実生の松は このお転婆な小一の腕力に負けたのだった。

「 うわい♪  これでアタシの  おしごと  はかんりょう〜〜♪  

 おかあさ〜〜ん  おじいちゃま〜〜〜 はぴば〜〜〜〜♪ 」

眼下の海に向かって機嫌よく声を張り上げると ―  すぴかは慣れた足取りでまた崖にへばりつき

寄りかかりつつ台地までよじ登っていった。

服はぐちゃぐちゃに汚れてしまったけれど 彼女はと〜〜〜っても満足していた。

 

 

 

「 ―  あ!  みつけた!  お転婆娘 発見 ! 」

フランソワーズが 声を張り上げた。

「 え!!! ど どこにいるんだ?!  え〜い このままでもいいや、助けにゆくぞ〜〜 」

ジョーはマフラーをゆらし 颯爽と立ち上がり 加速装置! ・・・・しようとしていた。

「 ・・・ 門の前。   うわ〜・・・・服、げでげでだわ〜 」

「 え!?  け ケガしているかい??  それじゃ病院に直行・・・いや だめだ この恰好じゃ

 とりあえず連れてくる! 」

「 待って! ・・・・ 元気です、にこにこしてます、 なにか しっかり握っています! 」

「 ??? とにかく行って ―  だめだ! この服じゃ〜〜  

 う〜〜〜 あ! いいや コートを羽織っちまえばわからないよな〜〜 」

ジョーは 玄関のクローゼットに走っていった。

「 ・・・ふう〜〜  とりあえず チビー1 帰宅。  よ〜〜〜し 次は チビー2!

 すばる〜〜〜〜・・・!!  どこまで遊びにいっちゃったのよ〜〜〜 」

003はそのすーぱー視聴力を海岸から裏山に向けた。

 

 

 ガサ ごそ・・・ ガサ ごそ ・・・

ちっちゃなセピアのアタマが雑木林の中を這いずっている。

「 ・・・ ないよ〜〜〜 なんで〜〜〜?  このまえ、おとうさんときたときには

 い〜〜っぱいおっこってたのに・・・・ くりさ〜〜ん どこにかくれてるの〜〜 」

すばるはもう半ベソだった。

雑木林の下草はもうほとんど枯れていて、中には虫さんたちが隠れていたりしたが・・・

「 あ〜 ごめんね〜 うん、なんにもしないよ〜 ねてていいよ〜 ・・・ くりさ〜ん・・・? 」

さすがオトコノコ・・・ 虫さんたちとはお馴染みなので驚きもしなかった。

「 ヘンだなあ・・・ このへんじゃないのかな。  おいけのほうじゃなかったし・・・

 あ もっとさきならおちているかもしれない〜〜 」

すばるは裏山を奥へ奥へと入っていった。

 

  ザワザワザワ ・・・ いろんな樹々がゆれる。  お日様があまり入ってこない。

「 ・・・ さむ〜い ・・・ ここ・・・はじめてかなあ・・・  あ! でもいつかすぴかと

 ぼうけん にきたとこだ!  え〜と・・・? 」

すばるは枯れ枯れになっている下草の中を ごそごそ分け入ってゆく。

「 ・・・ くりさ〜ん・・・!  タワシみたいなおようふく、きてたよね〜〜 」

この前の秋、おとうさんとすぴかと一緒に栗拾いに来た。

  ― その時 お父さんはいろんなことを教えてくれたけど・・・

「 おとうさん〜〜 くりさんってどこにはえてるの〜 」

「 くりさ〜ん くりさん♪ 」

子供たちは初めての栗拾いに大騒ぎだった。

「 あはは ・・・栗はねえ、 木の実なんだよ。  えっと・・・ あの辺りに栗の木があったはず 」

ジョーはわらわら纏わってくる子供たちを連れて裏山の下草を踏み分けてゆく。

「 ・・・ おとうさ〜ん まだァ・・・? 」

「 くりさん、 まだァ? 」

「 この辺に落ちているはずだよ。 探してごらん? 」

やがてジョーは栗の大木をみつけ 子供たちにその周辺を探させた。

「 え〜〜  くりさ〜ん ・・ くりさん ・・・? 」

「 くりさ〜ん ・・・  イタ!  とげとげせいじんだあ〜〜 」

「 え? なに すぴか??   うわ・・・ これ ・・・ なに? 」

双子は栗のイガを前に そう〜〜〜っと手を出したり 足でちょ・・・っと蹴ったりしている。

「 あ〜 あったか・・・ なに、ってこれが栗だよ。 」

「「 ええ〜〜〜 !?   」」

「 この ・・・ イガイガの中にね ・・・ よいしょ・・・! 」

ジョーは足と落ちていた枝を使って 器用にイガを割ってみせた。

「 ほうら ・・・ 栗さんです。 」

「 うわ〜〜〜〜  くりさんだ〜〜 くりさん ・・・ さんにん ?? 」

「 すご〜い・・・ さんにんきょうだい? 」

「 そうだよ〜 栗さんはほとんどが 三人兄弟 なのさ。  ほら・・・ 」

 ころん ぽろん ばりん ― 三粒の栗が 子供たちの目の前に現れた。

「「 ・・・ みつご だあ〜〜  」」

「 ほらほら・・・ 沢山拾うからね〜〜  袋を持っておいで。 」

「 うん!  ・・・ えっと  うんしょ〜〜っと ・・・ はい、 おとうさん! 」

「 ふくろ〜〜〜 あけ!  あ! 僕もみ〜〜〜っけ! 」

この時、 双子は栗さんは イガ というゆりかごに入っていることを、そして

三人兄弟だってことを学んだ。

 

 

裏山は <山> とはいえ せいぜいが丘程度、生えている木々も雑木林要員がほとんどなのだ。

池もあるが メダカやオタマジャクシの宝庫で、水溜りの親分・・・程度である。

ところが ―  今、すばるの目の前には  どよ〜〜ん ・・・と濁ったでっかいお池が広がっていた。

「 うわ・・・ これ なにかなあ〜・・・ おいけかな? でもちがうよね、お水がにごってるし。

 ここ・・・きたのはじめてだもんな〜  あたらしいおいけなのかな。 」

すばるは水に縁に立って 水面を覗き込んでみたけど泥水みたいで・・・葉っぱとかがいっぱい

落ちていて・・・ よく中は見えなかった。

「 ふ〜ん ・・・ おとうさんにきいてみよ。  あ!  こっちにおおきな木がある〜〜 」

水際を回ってゆくと大きな木が枝を広げ、中には水面近くまで伸びているものもあった。

「 ・・・ ん〜〜〜  くりさ〜〜〜ん??    あ?  あれ ・・・ これ ・・・  」

 カツン ・・・!  なにかまるっこいものがすばるの爪先に当たった。

「 くりさん?? ちゃいろだったよね?   ― あ〜〜〜 あったァ〜〜〜 」

すばるはしゃがみこんで一生懸命に近くの地面の枯れ草を掻き分ける。

「 ・・・ これ ・・・ イガイガ・・・あるよね。  ふうん ・・・ ここのくりさんはおぼうし、

 かぶっているんだあ?  あ こっちにも!  わあ〜〜〜 いっぱい〜〜♪ 」

たちまち 両手にいっぱい、まるっこい茶色の実が集まった。

「 ・・・ あれ?  くりさんはみんなさんにんいっしょ・・・っておとうさん、いったよね?

 このくりさんたちは みんなひとりづつだ・・・・? 」

ちょっとイガっぽい帽子を被った 艶々したまん丸の実 ― なんとな〜く・くりさんとは

ちがう ・・・  よ〜な気がしてきた。

「 どうしよう ・・・  あ! わかった!  このくりさんたちは  がいじん  なんだ!

 だからさ〜 みんなまんまるなんだ! そんでもってひとりでいっこ、なんだ〜

 うん。 ウチのおかあさんはわたなべ君ちのおかあさんとはちょこっとちがうけど・・・

 それはウチのおかあさんが がいじん のふらんすじん だから、だもんね。 うん♪ 」

すばるは自分で引き出した結論に大いに満足しますますご機嫌になってゆく。

「 僕、 がいじんのくりさん、ぷれぜんとするんだ〜〜♪ふんふんふ〜〜ん♪ 

 あ〜〜 もう持てない〜〜  」

ポケットというポケット全てに <まんまるな・くりさん> を詰め込んだ。

「 うんしょ・・・っと ・・・ あとは え〜と・・・ おじいちゃまの ちっこい木! 

 このくりさんのちっこいコ、 どっかにいないかなあ〜〜〜 」

そばるは 橡の大木の周辺をうろうろしている。

「 ちっこい木 ちっこい木〜〜 おじいちゃまの ぼんさい にするんだ〜〜 

 あ!  あったァ〜〜〜 ♪ 」

根っこの近くに 実生の小さな橡の木が生えてた。

すばるは大喜びで そのちっこい木を せ〜〜の! でひっぱり〜〜〜

  めりめめりり・・・ !  やっと抜けた。

「 わ〜〜〜い♪♪  おとうさん〜〜 おかあさん〜 とったあ〜〜 ! 」

根っこから土をばらら・・・と落としつつ、 すばるはものすご〜〜く満足していた。

「 やったあ〜〜  ぷれぜんと、じゅんびかんりょう〜〜っと。

 あ・・・  かえらなくちゃ〜〜  ・・・ ゆうやけこやけ  はまだきこえてないもんね。 」

ぐい、と袖でお顔と拭えば・・・立派な泥の髭がついたけど、本人にはわからない。

 

   ふんふんふ〜〜〜ん♪  くりさん ころころ  くりくりさん〜♪

 

超ご機嫌ですばるはガサガサガサ ・・・・ お家へ戻り始めた。

この辺りまで来たのは初めてだけど、 空の色ですばるには <ウチの方> がわかるのだ。

「 え〜とォ・・・・ ゆうやけこやけ〜 になってる方は・・・あ こっちだ・・・ 

 あ! みのむしさんだ!  ・・・ すご〜〜い・・・ これもおかあさんにおみやげ! 

 あ〜〜! ここにも み〜〜〜っけ♪ 」

道々、すばるの <おみやげ> はどんどん増えていった。

 

 

「 す〜〜ばる〜〜〜 」

 −  ガサガサガサ ・・・  茂みを分けて道に出たら、すぴかがぶんぶん手を振っていた。

「 あ  す〜〜ぴか〜〜〜 いま いく〜〜〜 」

「 ウン  みつかったあ?? くりさん。 」

「 うん!  すぴかはあ??? 

「 ―  ほら! 」

すぴかは坂の上で 白い花を掲げてみせてくれた。

「 わお〜〜〜  すごい〜〜  あのね 僕もね あのね〜〜 」

珍しく すばるはダッシュ! で ウチの前の坂を登りだした。

 

 

「 ・・・ チビー2、 帰還。 ただいま両名合流いたしました。 

フランソワーズの低い声が淡々と事実を伝える。

「 え! か 帰ってきたか〜〜〜 すばる〜〜〜 よかったァ〜〜〜 ! 」

ジョーは半分涙声になっている。  彼は防護服の上にコートを羽織ったままリビングを

行きつ戻りつ ・・・  ようするにただうろうろしているだけだった。

「 ― よく ありません。 」 

「 え?  あ! け ケガでもしているのかい?? ぼくの可愛いすばる〜〜 」

「 いいえ。  チビー2、も至極元気です。  ・・・うわあ〜〜こっちは顔までげでげでだわ・・・ 」

「 汚れているのかい?  いいさ いいさ 元気なら・・・ 

 ああ やっぱり迎えに行ってくる!  ぎゅう〜〜っと抱っこして頬ずりしないと安心できないよ!」

「 ・・・ どうぞ。  あら もういない ・・・ 」

加速装置よりも速いくらいのスピードで ジョーは玄関から出ていった。

「 ふん ・・・ まあいいわ。 せいぜいお父さんに甘やかされていらっしゃい。

 お母さんは!  ガン! と一発。  じ〜っくりお説教です! 」

フランソワーズは ソファに座りなおすと姿勢を正した。

 

今までさんざん言って来た ― 勝手に遊びに行ってはいけません、と。

歩けるようになってからず〜っと教えてきた ― 崖の方は危ないので近寄ってはだめ。

 裏山も柵を越えて行ってはいけません、 と。

幼稚園の頃から口をすっぱくして躾けた ― 夕方は <ゆうやけ・こやけ> の前に帰ること と。

小学校に入った時大真面目に約束した ― 黙って寄道はしません と。

そのたびに ちっちゃな色違いのアタマはこくこく頷き 真剣に母に向かって言ったものだ。

「「 うん わかった  おかあさん 」」

 

   ―  な   の    に ・・・!

 

子供たちはそのことごとくを反故にし、脱走したのだ。

要するに ― フランソワーズはチビ達が彼女の指揮命令下から完全に逸脱したことに

最高〜〜〜にカリカリきていたのだった。

 

「 ・・・ ええ いきなり怒鳴ったりはしません。 そんなの、最も下手な叱り方だし・・・

 逆効果よね。  ええ 理性的に でも きつく、しっかりお説教です! 」

えへん ・・・ 咽喉の調子も調えて 母は静かに待っていた。

 

 

   バタン ―   た〜〜だいま〜〜〜

 

玄関のドアが開いて・派手な音で閉じて ― もっとハデな声が聞こえてきた。

 

 

 

「 ・・・ よ ・・・いしょ ・・・  う〜〜ん ・・・? 」

すぴかはリュックを背負おうとして苦心している。

なにせ、 両手が塞がっているのだ ―  白くていい香りのお花( 球根つき ) と

ちっこい松の木 をしっかり握っているのだから。

「 ・・・ すぴか〜 ・・・て  こっち。 」

すばるが ぐい・・・っとリュックの手をひっぱってくれた。

「 あ・・・ う うん ・・・ うんしょ・・!   できた!   すばる〜〜 」

「 う うん ・・・・ う〜〜〜んしょ〜〜 ・・・・ 」

今度はすばるが大苦戦 ―  一応両手の荷物は下の置いているが なにせポケットという

ポケットが全てぱんぱんのてんこ盛り。  

「 え〜とォ〜〜  えい! 」  

今度はすぴかがレスキュー隊になった。

「 ・・・ あ ・・・ よ いしょ!  ふう・・・ 」

「 かえろうよ〜 すばる。  もうすぐ < ゆうやけ・こやけ > がきこえるよ。 」

「 ウン。   ね〜 僕 ガイジンのくりさん、い〜〜〜っぱい♪ 」

「 ナニそれ?  アタシ〜〜〜 しろいお花に ほら! ぼんさい! おじいちゃまに! 」

「 あ 僕も〜〜 ほら! ぼんさい〜〜 おじいちゃまに〜〜 」

突き出した手には ちっこい松とちっこい橡がしっかり握られていた。

「「 えっへっへ〜〜〜〜 ♪  」」

双子は満足の笑みを交わし、 泥んこな手を繋いでご門に向かった。

「 あけるね〜  」

「 うん すぴか。 」

すぴかは ご門の前に立った瞬間 ―  

 

    「 すぴか!!!  すばる〜〜〜 !!! 

 

「 わ?!?? な なに〜〜〜〜〜 

「 ・・・!?!?  う うえぇ  ・・・・ 」

二人は突然 きゅう〜〜〜っと抱き締められた。  

「 ああ ああ〜〜〜 無事でよかったあ〜〜〜〜  すぴか すばる〜〜〜〜 」

「 ?? ・・・ おとうさん? 」  目をまん丸にして姉が聞いて

「 ・・・ おとうさん? 」  目をぎゅっと瞑った弟が応えた。

「 そうだよ! お父さんだよ〜〜  ああ よかった よかった・・・ 」

「 ? おとうさ〜ん ・・・ きょうはおしごと、おしまい? 」

「 うわ〜〜い♪ おとうさ〜ん ねえねえJR、みにゆこうよ〜 」

「 うん うん ・・・なんでもやってやるよ。  さあ 帰ろうなあ・・・ 」

「 神よ!・・・ こうやってまた愛しい我が子達を抱き締めることができました。

 ああ 感謝いたします! ・・・ アナタは越えられない試練はお与えにならないって

 本当だったのですね ・・・ 」

お父さんは双子の言葉にはてんで応えもしないで ただやたらと一人で盛り上がっている。

「 ??  おとうさん? きいてる?  ねえねえ・・・ 」

「 おとうさ〜ん? ねえ いいよねえ? ねえねえ ・・・ 」

「 確かに人は愚かな存在です・・・・でも 悔い改めることができます!

 どうぞ そんな ・・・ 愚かな人間どもにも祝福を ・・・ 神よ! 」

「 すばる?  ・・・ いっせ〜のせ! でおりよう! 」

「 う   うん  ・・・ すぴか。 おとうさん、ぜんぜんへんじしないし〜 ねてるのかな 〜 」

「 ・・・わかんないけど。  おつかい、はやくおかあさんにあげなくちゃ。 」

「 うん! こんばんのごはん、ぎょ〜ざ♪ しってた〜〜 すぴか? 」

「 と〜ぜん♪    ね  じゃあ いっせ〜のせ! で。 」

「 ウン! いっせ〜の〜せ! でとびおります〜〜 」

「 うん!  じゃ ・・・   

 

           いっせ〜の〜 ・・・・ せっ !!!

 

「 お前たちが大変〜ってお母さんが ―  うわ!??! な な なんだ〜〜〜 」

 

  ―  ぽん!   ふたごはおとうさんお腕から脱出〜〜 成功♪

 

「 おとうさん!  アタシ ・ 僕  おとうさんとあそんでいるヒマ ないんだ〜〜  じゃあね〜 」

二人は地面に降り立つと さっさとお玄関に向かって駆け出した。

「 ・・・ あ  ・・・  すぴか  すばる ・・・ 」

 

   ひゅるるん −−−− ・・・   ただ 風だけが吹いているだけ ・・・

 

「 ち ・・・ 父親は 孤独だ・・・ 」

ジョーは ―  吹き荒ぶ風が しんしんと身に沁みていた。

 

 

 

「「 ただいま〜〜〜 !!  おかあさんッ 」」

双子は元気にお玄関のドアを開けた  ―   けど。 そこにいつものお母さんの笑顔はなかった。

「 ??  おか〜さ〜〜ん! た だ い ま〜〜  すぴか 〜〜よ 」

「 おかあさ〜〜ん !  すばる〜〜〜 ! 」

二人はお玄関で思いっ切り大きな声でお母さんを呼んだ。

「 ・・・・ ん ・・・? 」

「 ・・・ あ!  きこえるよ〜 すぴか! 」

「 え? ・・・ あ〜 ・・・ 」

 

   「 おかえりなさい。  足をきれいに拭いてから上がっていらっしゃい。 」

 

リビングから お母さんの声が聞こえた。

「 ・・・  は 〜〜 い ・・・  」」

ちっちゃな声でお返事してから すぴかとすばるはオデコをくっつけ合わせじ〜っと見合っていた。

「 ・・・ おこってる。  おかあさんってば  おこってる ! 」

「 ん。  おこってる ・・・ あ ねえねえ いま ぷれぜんと、 あげる? 

「 ウ〜〜ン・・・ 」

「 あ! そうだ〜  僕ね、おかあさんにおみやげ あるんだ〜  」

「 アタシだってあるもん。 白いおはな、ほら ちゃんと・・・ 」

「 僕だってくりさん♪   けど〜 もっといいもの、みつけたの。 だから いこ。 」

「 え・・・ う〜ん ・・・ あ すばる〜〜 」

珍しくすばるは すぴかよりも先になってさっさとお玄関に上がった。

「 あし ・・・ ふかなくちゃ・・・ ほら すぴか。 おぞうきん。  」

「 え あ  うん ・・・  あ まって まってよ、すばる。 いっしょにさ〜 」

「 うん、いっしょに ただいま してさ〜  おつかい、わたさなくちゃ。 」

「 あ! そうだよね〜 ぎょうざのかわ  と  べ〜こん! 」

「 うん  ただいま〜〜 おかあさん。 」

「 ただいま〜〜 」

「 ねえねえ おみやげ〜〜  ねえねえ みてみて〜〜 

双子はにこにこ ・・・ リビングに入っていった。

 

 

「 おかえりなさい、すぴか すばる。 」

おかあさんは ソファに座っていた。  いつもみたく抱き上げてキスしてくれたり ・・・ しない。

いつもみたくリュックをおろしてくれたり ・・・ しない。

じ〜っと座って じ〜っと二人を見ている。  にこにこしてるけど ― ナンかちがう。

「 ・・・ すぴかァ〜 ・・・ 」

「 ん ・・・ あ  あの おかあさん。  これ ・・・おつかい。 」

「 おつかい! 」

「 ありがとう。  ごくろうさま。  おつりは?  ・・・・ はい、 ありがとう。 」

おかあさんは にっこ〜り笑顔で <お使い> の荷物やお金をうけとってくれた。

  

        あ   れ ・・・?   なんか ・・・ ちがう  よね?

 

        おかあさん・・・  ホントにすばるとすぴかのおかあさん?

 

双子は し・・・・んとしてしまった。

「 二人とも。 お使いから帰ってきてウチの前の坂道、のぼって ―  それからどうしたの。 」

「 ・・・ え?  あ   あのぅ 〜 」

「 僕ぅ ・・・・ あの ・・・ 」

お母さんのキレイな緑がかった青い目が じ〜〜〜〜っと二人を見ている。

 ― 見てるだけ なんだけど、   二人は動けない ・・・ 手も足も動かない。

「 寄道、しちゃだめ ・・・って お約束よねえ? 

 学校の行き帰りも お使いの帰りも。  いっつも 寄道はだめ、でしょう? 」

「 ・・・ う ん ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

「 それなのに。   ふたりともどこに行っていたのかしら。 

「 あのね! あの〜〜〜〜〜 ・・・・  プレ・・・ あ! ううん〜〜  あのぅ〜〜

 がけのさきのはじっこ! 」

「 あのね・・・・ うらやまのおっきな木がいっぱいでくらいおいけがあるとこ! 」

「 ・・・え??? どうしてそんな所に行ったの? 」

お母さんの声がちょっぴり震えていた。

「 え あ〜〜 う〜ん ・・・ ね〜 すばる? 」

「 うん。 ね〜 すぴか。 」

双子は顔を見合わせてうんうん・・・と頷きあっているだけで、何にも話さない。

「 ・・・ 話してちょうだい、二人とも。 」

お母さんは 今 笑っていない。

 ―  あ ・・・ コレってやっば〜〜〜・・・  双子は本能的に察知した!

 

「 あ! おかあさん〜〜 あのね、 おみやげがあるんだ〜〜 」

「 ・・・ お土産? 」

「 ウン。  僕のタカラモノにしよっかな〜とおもったけど。 おかあさんにあげる。 」

すばるはいつものにこにこ顔で ぽっけからハンカチのカタマリを引っ張り出した。

「 まあ ・・・ なあに?  それも裏山でとってきたの? 」

「 うん そう。  ― おかあさん おてて、だして。 」

「 ??  いいわ  ハイ。 」

フランソワーズは素直に手をだした。

「 ・・・ は〜〜〜い これです〜〜  」

   ― ころん。  なにかひんやりしたカタマリみたいなモノがフランソワーズの掌にのっかった。

「 ・・・ すばる?  ね え ・・・  こ  れ   なに? 」

「 え〜〜〜 おかあさん、しらないの?  カブトムシのようちゅう だよ〜〜 」

 

「 !!??  〜〜〜〜〜〜〜  ・・・・・ ! 」

 

お母さんの声にならない叫びが上がり ― 同時の掌の上のモノもぽ〜〜ん・・・と宙に浮いた。

「 ァ〜〜〜〜   おかあさん〜〜〜〜 」

「 ・・・・ っとォ〜〜〜。  きゃ〜〜〜っち♪  つかまえたよ〜〜 すばる。 」

「 あ あ〜〜〜 すぴか、すご〜〜い〜〜〜 」

 

    ―   バン !  

 

リビングのドアが開いて お父さんが駆け込んできた ・・・ しっかりとコートの前を押さえつつ・・・

「 ふ フランソワーズ 〜〜〜!?!? 無事かい! 」

「 ・・・・ ジョー ・・・・〜〜〜〜〜〜 ! 」

お母さんはひし!とお父さんに縋りつき、その広い胸に顔を埋めた。

「 あ〜〜  また・・・ ちう? 」

「 ・・・だね〜 ・・・ふ〜〜〜 長いよねえ きっと。 」

そんな両親の様子を子供達は溜息交じりに慣れた目線を送っている。

「 あ  ほら すばる。 これ・・・タカラモノでしょ〜 」

「 さんきゅ〜〜 すぴか♪ ・・・ おかあさん、キライなのかなあ・・・ 」

「 う〜ん? でももうおかあさんにはみせないほうがいいみたい。 」

「 ウン ・・・ 」

 

「 すぴか すばる。 」

お父さんがお母さんを抱いたまま 二人を呼んだ。

「「 は〜〜〜い   なに〜〜 おとうさん 」」

「 お父さんとお母さんに 今日、二人が寄道した場所を説明しなさい。 」

「「 ・・・ え ・・・ 」」

「 え  じゃないでしょう。  がけとうらやまって言ったけど ・・・ そんな所で何をしていたの。 」

「 ・・・・・・・・ 」

双子はお互いにちろちろ見合っていたが ― 

「「 ちょっとまってて!  とってくる! 」」

だだだ・・・っと玄関まで駆け戻り ― ドロドロのモノを持ってきた。

「 ・・・ うわ・・・ ちょっと〜〜 汚さないで・・・ 」

「 あの! これ。  おかあさんのおたんじょうびぷれぜんと! すいせんのお花!

すぴかが 白い花が咲いた植物 ( 球根と泥つき ) を差し出した。

「 これ!  がいじんのくりさん。  おかあさんのおたんじょうびぷれぜんと。 」

すばるが 両手いっぱい・・・ どんぐり ( 泥つき ) を見せた。

「 うわ・・・ これ ・・・ 採りに行ってたのかい、二人とも・・・? 」

「「 ウン !!! 」」

「 ・・・ この水仙 ・・・ あの崖っ縁 ・・ 海に突き出たところの ・・・? 」

「 うん! アタシ〜〜〜 とってきた! 

「 ・・・ 橡の実 よね ・・・ もしかして沼の縁にはえてる ・・・? 」

「 ぬま?  にごったおいけのそばだよ〜 」

「 ・・・・・・・・・・・  !!!! 」

「 ??  あ!?  ふ フラン〜〜〜〜 大丈夫かい??? 」

 

   ―  そう そして。  

 

二人の活躍の場? 崖っぷち と 底なし沼のほとり を お母さんはその眼で <見て> 

今度こそ本当に     失神してしまった ・・・・!

 

 

その日。 晩御飯はお父さんが餃子を作ってくれた。

( すばるもい〜〜〜っぱい手伝った。  すぴかもちゃんと餃子を包めた。 )

子供達はお父さんとおじいちゃまにみっしり ・・・ < 寄道はダメ > のお説教を喰らった。

 ・・・ けど。  どうやら右から左・・・だったらしい。

ともかく ― なんとか一日は終った。

 

いろいろあったけれど 島村夫妻は、ま〜〜ったり・・・ベッドでおしゃべりタイムだ。

「 ・・・ あは。  とんだお誕生日プレゼント騒動になっちゃったけど・・・

 アイツらだってきみがだ〜〜い好きなんだし。 」

「 ・・・ ええ ・・・ それはよくわかっているのだけど・・・

 ああ でもほっんとうにね、寿命が縮まったわ・・・ 

 ジョーもね、 あの崖っぷちと底なし沼を見てみればわかるわ。 」

「 さっき確かめてきたよ。  ・・・ウチのチビ達、凄いよね。 」

「 ― ジョー。 」

「 あは ・・・ ごめん。  でも こんなの序の口だろうな〜 」

「 ・・・え?? 」

「 これからだ、ってことさ。 アイツらにドキドキ ハラハラさせられるのは さ。

 もうウチの中だけで遊んでいる <ちっちゃな すぴか と すばる > じゃないんだ。 」

「 ・・・ そうねえ ・・・  なんか ちょっぴり淋しい・・・ 」

「 ぼくがいます〜〜♪ 奥さん。 」

「 ― え ? 」

「  うふふ  ・・・ だから さ。  きみが世界で一番スキ♪ってこと さ♪ 」

「 あ ・・・ きゃ ・・・ 〜〜〜 」

「 だから さ。 ぼくが独り占め してもいいってことなのさ♪ 」

「 ・・・ もう 〜〜 」

「 し〜〜   ちゅ・・・・・ 」

「 あ ・・・ んんんん ・・・・・ 」

ジョーはもうそれ以上 彼の恋人に話をさせなかった。

 

 家族から そして恋人からもらうのはいつだって 最高のプレゼント  なのだ。

 

 

 

*******  ちょっぴり オマケ  ********

 

 

すぴかが大奮闘して引っこ抜いてきた水仙は お母さんがお玄関の脇に植えてくれた。

「 今にね。 ご門の方まで ず〜〜〜っと。 このお花が広がるわ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ 」

「 すぴかがお嫁さんにいって ・・・ すばるがお嫁さんを貰うころ かしら。 」

お母さんはちょっとだけ 淋しそうに笑った。

おじいちゃまに! と 二人が採ってきた松と橡のちっこい木を 博士は門の両脇に植えた。

「 これはいい木になるよ。 盆栽などにするよりも、大きく育てよう。  」

博士は眼を細め、可愛い孫たちに教えた。

そして  すばるの  がいじんのくりさん  は ―  おじいちゃまが細工をしてくれた。

「 ほれ ・・・ 皆にプレゼントじゃよ。 」

「 わ〜〜〜 おじいちゃま〜〜 これ ・・・すとらっぷ? 」

「 うわ・・・ くりさんのすとらっぷ〜〜 」

「 あはは ・・・ これはなあ すばるや。 栗じゃなくて橡の実、どんぐりじゃよ。

 食べるよりもこうして加工したりすると楽しいじゃろう? 」

「 あら 素適ですわねえ。  え わたしにも? 」

「 もちろん。 これは坊主が母さんに、と集めてきたのだもの。

 それにな・・・ チビさん達のどんぐりの中にGPSを仕込んでおいた・・・ お護りじゃよ。 」

「 まあ〜 ありがとうございます! 」

「 なんの なんの ・・・ いい木をもらったしのう ・・・ 」

博士は 門の脇にようやく根を下ろした松と橡のひよひよした苗を眺めた。

 やがて  門の脇には松と橡が大きく枝を広げ木陰を作るだろう。

「 ・・・ ワシに代わって ・・・ この家を 家族を 見守っておくれ・・・ 」

 

街外れの崖っ縁、そこに建つ洋館には。 ごく普通の家族が賑やかに暮している。

 

 

 

 

****************************    Fin.   ******************************

 

Last updated : 02,05,2013.                        back        /       index

 

 

 

**********   ひと言  **********

ははは ・・・ はぴば話〜 というより グダグダ話になってしまった・・・

まあ そんな訳で? 一家は <そしてシアワセに暮しました> なのです〜